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『たけみんの大和魂』

小学校3年生の夏のこと。 教室には重たい空気が充満していた。 下校の時間はとっくに過ぎていたが、誰一人下校することは許されない。

教壇で口をへの字に曲げた担任が、不満を吐き出すように呟いた。 「誰かが選手に立候補しないと、今日は誰も返さないと言っている。」 そう、一週間後に控えた水泳大会の選手を決めていたのだ。 楽な種目は早々と決まったのだが、50mクロールと25m背泳ぎがどうしても決まらない。 小学校3年生にとっては50mのクロールなど到底無理に思われた。

先生と目が合わないように、沈痛な面持ちでうつむいていると、後ろの席から姥(うば)くんがささやく。 「ねぇ、ねぇ、たけみくん。僕と一緒にクラスのヒーローになろう。」 姥くんは悪魔のように手足がヒョロリと長く、水泳が大の得意だった。 一方僕は1m以上泳げたことのないカナヅチだ。 「たけみくんが50mに出てくれたら僕が背泳ぎに出る。きっとクラスを救うヒーローになれるよ。」 そうか。 迷いはなかった。 「先生、僕が50mのクロールに出ます!」

・・・

クラスのみんなが必死に笑いをこらえているのが解った。 あぁそうさ、僕はクラスイチのカナヅチだ。

いよいよ水泳大会当日。 メインイベントの50mクロールの飛び込み台に立っていた。 飛び込みなどしたこともない。 「位置について、ヨーイ!!」 無情の笛が鳴る。 華麗に飛び込む上級生たちに囲まれて大和魂を燃やす。 果敢に飛び込んだ僕が浮かんでくることはなかったという。

気がついたら保健室のベッドで、以後、クラスの誰一人として僕に水泳大会の話はしなかった。

『たけみんの迫真』

高校3年生の夏を迎えていた。 受験のこの年、県でも有数の進学校に通っていた僕は、連日夜9時くらいまで補習を受けていた。 今思えばしごきと言われるほどの勉強量だったが、そのおかげで安全な学園生活を送っていた、、、 はずだった。 あの校内放送で呼び出されるまでは。

「アァン?!?!」 「オォウっっ?!?!」 学校のトイレの鏡の前で、精一杯メンチを切る練習をしていた。 「アァっっ?!?!」 「ゔぅぁっ?!?!」 しかし致命的に迫力がない。 ドスの効いた声を!と腹に力を入れるが、途中で声は裏返る。 重く落胆のため息をつくしかなかった。

30分前。 いつものように授業が終わり、補習の準備をしていた。 もう3年生しか残っていない静かな校内に、校内放送がかかる。 「3年4組の岩川くん、3年4組の岩川くん、直ちに職員室まで来るように。」 当時学級委員長をしていた僕が呼び出されることは珍しいことではなかった。 きっと雑用で呼び出されたのだろう、そんな楽天的な予想を立てたが、はかなくも外れることになる。

職員室。 「先生、お呼びですか?」 「あぁ、電話、お母さんから。」 ポケベルもケータイもない時代だ。 「もしもし?」

「あぁ、ターボー。あのね、ついに雄洋(タケヒロ、弟)の番が来てしまったの。」 雄洋の番。 それが何を意味するかすぐに解った。 3つ年下の弟が通う中学校では非行が横行していた。 街中で噂になるほど酷い非行だった。 番長に目を付けられると、順に呼び出されて、体育館裏で徹底的に暴力を受ける。 親も先生も見て見ぬふりだから、暴力は酷くなる一方で、つい先日は1年生の男子が金属バットで後頭部を殴打され病院に運ばれたばかりだった。 「雄洋がね、さっき学校から帰って来て泣いてるの。ターボー、代わりに話をつけて来てもらえないかな?」 話が通じないほど野蛮な奴らだから、街の噂になっていたのだ。 受話器を置く瞬間、いつだったか、果敢にプールに飛び込んだ自分を思い出していた。

中学校、体育館裏。 ガムをクチャクチャと噛む番長と対峙していた。 「おぅ、お兄ちゃんをよこすとは雄洋は卑怯だなぁ。しかも一人で来るとは兄ちゃん、いい度胸ですねぇ?」 その敬語が逆に怖いではないか。 カツン、カツン、カツン、背後で砂利を突く金属バットの音がしていた。 少なくとも3人はいる。 もう付け焼き刃のメンチを切る気にもならない。

「もし内の弟に失礼があったなら謝る。だからもうこんなこと、止めてくれないかとお願いしている。」 「へぇ、兄ちゃん、面白いねぇ。」 何も面白くない、真剣だ。 メンチを切る番長。 目を逸らさない僕。 膝はガクブルだ。 実際は10秒程度だったのかもしれない。 でもそれは30分にも1時間にも、永遠にも感じられた。

「もういいっすよ。馬鹿らしい。」 「えっ?」 失禁するかと思った。 さすがにちょっとテンパった。 「オォウっっ?!?!」 とメンチを切ってその場を去った。

それ以降、暴力の噂は聞かなくなったのだった。 たけみんの迫真。

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